映画『ゲットアウト』にはたくさんの伏線が張られていますが、普通に見ていると見逃してしまうような細かいものばかりです。しかし、隠された伏線を回収し見てみると、そこからは黒人の歴史が垣間見え、より作品がおもしろく感じられると思います!
あらすじ
黒人の青年・クリスには、ローズという白人の恋人がいます。2人は愛し合っており、ある日クリスは彼女の実家に招かれ、共に夕食を食べたりと楽しい時間を過ごしました。しかし、クリスは徐々にこの家の異変を感じるようになります。この家で働いている黒人の家政婦や庭師の様子がおかしいのです。
翌日、クリスはホームパーティーに参加することになりますが、ここでも異変を感じたクリスはローズにもう帰ろうと言います。しかし、ローズがクリスを家に帰してくれることはありませんでした。ローズ一家は、狂気に満ちた秘密組織だったのです。
ローズは黒人を恋人にして騙し、弟は誘拐をし、母は催眠術をかけて、父が白人の脳みそを黒人に移植していました。これにより、白人は黒人の肉体を使い、永遠の命を得られるというわけです。そして、クリスもそのターゲットの一人だったのでした。
伏線を分析
『ゲットアウト』には様々な伏線が張られており、その意味を調べることによって、映画を見た人はより作品を楽しむことができます。また、私はこの「伏線」こそ、監督が観客に最も伝えたいメッセージだと考えます。映画にどのような伏線があり、監督が何を伝えたかったのか見ていきましょう!
車にはねられる「鹿」
車に乗っているクリスとローズが、飛び出してきた鹿をはねてしまうシーンがあります。その後、警察はクリスにだけIDを見せるように言いますが、ローズが差別だと抗議します。一見、ローズは人種差別反対主義に見えますが、実はこれから行方不明になるクリスの足取りを残したくなかったという訳がありました。

このシーンではねられた鹿は、ブラックバックという種類です。実はこの「鹿」は重要な意味を持っています。ブラックバックは英語でBlack Buck。外国では「Token Black」を連想させる言葉とされています。「Token Black」とは、白人の間で使われた言葉で、「ストーリーの脇役として登場するお飾りの黒人」という意味です。昔の白人主体のテレビドラマでは、人種団体から批判が来ないように、端役で黒人を登場させていたという過去がありました。その「脇役の黒人」がひき殺されるというシーンは、クリスの死を連想させますよね。
また、「鹿」は英語で「Deer」ですが、「Deer」は「彼女を作ろうとして失敗する男」という意味を持つスラングです。クリスの彼女・ローズは、結局クリスを獲物として見ていたわけなので、「Deer」はクリスを意味していると考えられます。また、「鹿狩」を意味する「Deer Hunting」という言葉は、外国で「文化として殺される対象」という意味を持ちます。黒人が迫害されてきた歴史を感じさせる伏線ですよね。
「たばこ」や「綿」は黒人奴隷の象徴

この作品において重要な意味を持っている「たばこ」と「綿」。「たばこ」は、何回も映画の中に登場しており、また、クリスはローズの母から禁煙ができるようにと催眠術をかけられていますよね。次に「綿」ですが、これはクリスがローズ一家に捕えられてしまうシーンで登場します。クリスは椅子に縛られ催眠術を掛けられそうになりますが、椅子から「綿」を取り出して耳栓代わりに使い、催眠術から逃れることができました。

この「たばこ」と「綿」は、黒人奴隷の時代を象徴するものとして登場しています。16世紀、アメリカ南部では、黒人の奴隷制度が行われていました。黒人奴隷は白人に買われ、毎日長時間、たばこや綿花の栽培を強いられてたのです。このたばこと綿の栽培は、アメリカ南部の経済を大きく支えてきましたが、そこには黒人が奴隷として働かされている過去があったのでした。
クリスとローガンの握手

主人公の黒人クリスがローズ家のパーティーで黒人の青年・ローガンと出会い、拳を合わせようとするシーンがあります。クリスは握った手をローガンの前に差し出しますが、ローガンはそれには応じず拳を包むように握手を交わします。その後、クリスは不思議そうな顔でローガンを見ていました。
実は拳と拳を合わせる挨拶は黒人の習慣であり、白人にはその習慣がありません。白人同士の挨拶は、一般的な握手です。これはつまり、ローガンの中身は黒人ではないということになります。
車の中にある「鉄鎧」

映画の終盤で、クリスが車に乗って逃げるシーンがあります。車内には「鉄鎧」が置いてあり、観客はここで冒頭の黒人が誘拐されるシーンの犯人に気が付きます。犯人は、ローズの弟だったのです。
この「鉄鎧」は、KKK(クー・クラックス・クラン)を意味しています。KKKとは、白人至上主義団のことです。体に白いローブをまとって顔を隠した姿で町を練り歩き、黒人に暴行や脅迫を繰り返していました。また、夜中に「ナイトライダー」と呼ばれる馬に乗った団員が現れ、暴行を加えることもありました。
帽子を被る黒人

実はクリスがローズの家で出会う黒人の人々は、全員が帽子を被っているのです。家政婦のジョージナーは帽子を被っていませんが、異様に髪型を気にしています。よく見てみると、彼女はかつらをかぶっているということが分かります。彼らが頭を隠している理由は、手術の怪我を隠すためでした。不自然な行動を繰り返す黒人は、皆ローズ家の犠牲となった人々だったのでした。
「カメラのフラッシュ」で我に返る黒人
ローズ家のパーティーで、黒人のローガンはクリスがカメラのフラッシュをたいたことにより、一時的に自我を取り戻しています。これは実際にあった事件のメタファーとされています。それは、「エリック・ガーナー窒息死事件」です。

非逮捕者の黒人に白人の警察官たちが絞め技をかけ、殺してしまったという事件です。エリック・ガーナーの友人が、スマートフォンのカメラで一部始終を録画していたことにより、警察官を告発することになりました。その後、この事件は社会問題として大きく扱われます。無法な暴力に「撮影」で対抗するという社会的な風習がこのシーンに込められています。
「赤」と「青」の服
ローズ家で行われたパーティーを思い出してください。白人であるローズたちは赤色の洋服を着ていたり、赤色の物を持っています。それに比べて黒人のクリスは青色の服を着ています。このシーンでは赤が共和党を、青が民主党を現しています。共和党は、保守主義で南部・中西部の白人の支持が多いとされていました。一方で民主党は、リベラルでマイノリティや労働者からの支持が多いとされていました。
「白い牛乳」と「色とりどりのシリアル」

ローズが食べている夜食は、コップに入った牛乳と色とりどりのシリアルです。普通、シリアルと牛乳は混ぜて一緒に食べるものですが、ローズは混ぜずに別々に食べています。「白い牛乳」は白人を現しており、「色とりどりのシリアル」は黒人を現しています。このことから、牛乳とシリアルを別々に食べているローズは、白人と黒人の交わりを許さない差別主義者であるということが分かります。
クリスの家のポスター
物語の冒頭にクリスの家の中が映し出される場面があります。クリスはフォトグラファーであることから、彼の部屋にはモノクロ写真がいくつか飾られています。その中の一つに、白人の少女が黒いマスクを被っている写真があります。これは、物語の展開である「黒人の皮を被った白人」を暗示していると言えます。
まとめ
『ゲットアウト』にはこのようにたくさんの伏線がありました。これらの意味を考えることは、監督が何を伝えたかったのか考えるきっかけとなり、また作品への理解もより深まるように思えます。
『ゲットアウト』の監督、ジョーダン・ピールは、アフリカ系アメリカ人の父親と白人の母親の元に生まれています。ジョーダン・ピールは、アフリカ系アメリカ人の血を受け継ぐものとして、「黒人」が今までどのような歴史を歩んできたのか、またどのような差別を受けてきたのかということを観客に伝えたかったのかもしれませんね。
「人種差別」を取り扱っている映画に興味がある方や、「人種差別」を勉強したい!という方は、今回の記事と合わせて、ぜひこちらの記事もチェックしてみてください!
⇒「人種差別」がテーマの映画おすすめ5選!