2020年6月に日本でのミュージカル公演が決定している『ヘアスプレー』!人種差別をテーマに、白人と黒人が次第にお互いを受け入れていくストーリーはとても感動的です。この記事では、『ヘアスプレー』の日本公演で、日本人キャストがどのように白人・黒人を演じ分けるのか、筆者の考えを紹介しています。
白人・黒人をどう演じ分ける!?
人種差別が色濃く残る1960年代のアメリカ・ボルチモア。黒人は至る所で分離され、白人と同じ場所でダンスをすることもできませんでした。
映画『ヘアスプレー』は、この時代を描いているわけですが、日本でミュージカル化するにあたって、筆者には1つ疑問な点があります!それは、「白人・黒人をどう演じ分けるのか…?」という点です。『ヘアスプレー』はミュージカル化する上で、白人と黒人を演じ分ける必要がありそうですが、日本公演ではどのように人種を表現するのでしょうか?
本作が、過去に海外でミュージカル化された際には、当然のことながら白人役には白人の俳優を、黒人役には黒人の俳優を起用していました。しかし、日本での公演となると、“日本人”という1つの人種が、白人も黒人も演じなくてはならないため、演じ分けはとても難しいと言えます。
そこで今回、筆者は考えられる方法をいくつかあげてみました。日本人が白人・黒人を演じる方法はどのようなものがあるのでしょうか?
肌を塗って人種を区別する

1番わかりやすく白人・黒人を区別する方法として、肌を白くまたは黒く塗るという方法が考えられます。外見から一目瞭然のため、観客からすればとても分かりやすい方法ですよね。
しかし、実はこの方法は“1番タブー”であり、世界的に決して行ってはいけない行為なのです!日本は多人種の国ではないため、人種差別を日常的に感じる機会は少なく、肌を塗って人種を表現することに違和感のない方もいるかもしれません。
そして、なぜ肌を塗るのがダメかというとそれには“ブラック・フェイス”というアメリカのエンターテインメント文化が関係しています。
黒人以外の演者が黒人を演じるために施す舞台化粧のこと。顔を黒く塗り、巨大な目玉、広がった鼻、開けっ放しまたは歯を見せて笑った分厚い唇の口などが、黒人の象徴として表現されていた。
また、ブラック・フェイスの演者が面白おかしくダンスや演劇を披露するエンターテインメントは、“ミンストレル・ショー”と呼ばれ、19世紀を中心に流行ったといわれています。
しかし、このミンストレル・ショーは人種差別を反対するアフリカ系アメリカ人の公民権運動により、次第に見られなくなりました。そして1960年代、ブラックフェイスは公式に禁止となります。
肌を黒く塗るという行為は、ミンストレル・ショーの象徴であり、過去の悲惨な人種差別を連想させます。そのため、現在では肌を色で塗って人種を表現する行為はタブーとされているのです。
また、“ブラック・フェイス問題”に対して現在は世界的に敏感であり、少しでも肌を塗って人種を表現しようものなら、理由が何であれ、批判の対象となります。
実際にこれまで多くの有名人が、この”ブラック・フェイス”を連想させるメイクを施し、世界中の批判を浴びています。
- 2013年10月、女優ジュリアン・ハフがハロウィンで『オレンジ・イズ・ニュー・ブラック』のクレイジー・アイズ(ウゾ・アドゥーバ)に仮装し、ブラックフェイスを施して批判の対象となった。
- 2017年12月、日本のバラエティー番組『ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!』の企画において、出演者が黒人俳優のエディ・マーフィに扮するため、顔に黒塗りを施して登場した。これについて、放送直後から外国人視聴者を中心に批判意見が相次いだ。
- PRADAが2018年12月に発売したキャラクター製品が、ブラックフェイスの表現であると批判された。
黒人俳優を起用する

次に考えられる方法として、黒人の俳優を起用するという案が挙げられます。
しかし、白人役だけを日本人が演じ黒人役を黒人が演じるというのは少々違和感があり、これは人種差別にあたるとも考えられます。海外公演のように白人役は白人が演じ、黒人役を黒人が演じながら、出演者が全員日本語を話すという方法もありますが、片言な日本語では観客が感情移入しにくく、現実的とは言えません。
それでは、日本語がペラペラの外国人俳優を起用すればこの問題は解決するのではないでしょうか?ということで、2020年2月現在でそのような外国人俳優がいるのか調べてみました。
結果から言いますと、結構います!
日本で活動する外国人俳優を集めメディアなどに派遣している会社もあり、ミュージカルを製作するうえで必要な人数は集まりそうにも思えます。しかし、実力や話題性という点を踏まえて考えると、少し難しいように思えます…。
髪型・髪色を分ける
最後に考えられる方法は、白人役も黒人役も日本人が演じ、髪型や髪色で区別するというものです。
白人はブロンドや茶色の髪色、黒人は黒髪または特有の縮れた髪質を表現することで、その俳優が誰を演じているのか外見だけで分かるようにするという方法が考えられます。
そして実際に、日本公演ではこの方法がとられるようです。ミュージカル『ヘアスプレー』の公式サイトを見る限り、キャストは全員日本人であり、黒人のシーウィードやアイネスを演じる俳優は黒髪で少し縮れているようなヘアースタイルになっています。
Twitterの公式アカウントで公開されているキャストのヘアスタイルやメイクは、このようになっています。
しかし、黒人役を演じるキャスト全員がこのようなヘアースタイルという訳ではないと思うので、ミュージカルを見ていて、「あれ、これは白人・黒人どちらを演じているんだろう?」と疑問に思うこともあるかもしれません。
ヘアメイクや衣装で、どのように人種を表現していくのか楽しみですね!
まとめ
この記事では、ミュージカル『ヘアスプレー』で、日本人キャストがどのように白人・黒人を演じ分けるのかについて考察してみました。
ストーリーを理解するうえで、キャストが誰を演じているのか知るということは大切であり、ヘアメイクや衣装を通して人種を表現することも必要であると考えます。
しかし、物事を外見では判断しないという本作のテーマから言うと、キャストが白人・黒人どちらを演じているのか明確に分けるということはナンセンスなのかもしれません。
実際に、公式サイトではこのようなメッセージが発信されています。
観客の皆様へ
『ヘアスプレー』のクリエイターである私たちが、高校やコミュニティシアターにこの作品の上演許可を出すようになったころ、黒人である登場人物をアフリカ系アメリカ人以外が演じるためメイクアップを行うことをめぐり、一部の人から質問を受けました。
世界中のすべてのコミュニティが『ヘアスプレー』の脚本通りにキャスティングができるような、見事にバランスのとれた民族構成メイクアップにはなっていない(駄洒落で失礼します)ことは理解していますが、当然ながら出演者の顔に色を塗ることなど(たとえそれが敬意をもって、控えめに行われるものだとしても)許可できませんでした。というのも、やはりそれは結局のところブラックフェイス(黒塗りメイク)の一種であり、いうまでもなく本作品が反対の立場を取っている、アメリカの人種にまつわる歴史の一ページだからです。
また、肌の色を理由として、俳優がある役を演じる機会を否定することは、たとえそれが “ポリティカリーコレクト(政治的に公平・公正)”であるとしても、それ自体が人種差別になることにも気づきました。
ですから、本日注1ご覧になる『ヘアスプレー』の公演に(エドナ役を代々、男性が演じてきたように)本人の肌の色とは異なる役を演じている出演者がいるとしても、 “不信の一時的停止”注2という、いつの世も変わらぬ演劇的概念にのっとり、出演者の人種的な背景(あるいはジェンダー)を見るのではなくストーリーを味わっていただきたいと考えています。そもそもこのミュージカルのテーマは、物事を外見では判断しないことなのですから! 演出やキャストが優れていれば(そうであることを期待しています!)、そういったメッセージは明確に伝わるでしょう。そして観客の皆様には、楽しみながらそのメッセージを受け取っていただけましたら幸いです。
感謝をこめて。
マーク、スコット、マーク、トム&ジョン
ミュージカル『ヘアスプレー』公式サイトより引用
映画『ヘアスプレー』で見られる人種差別について興味のある方は、こちらの記事で紹介していますので、ぜひあわせてご覧ください!