『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』の世界観を分析

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『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』は、ティム・バートン監督によって製作された11作目のミュージカルアニメーション映画です。可愛らしくも不気味なキャラクターは、今も多くの人に愛されています。この記事では、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』の世界観がどのように生まれたのか分析しています。

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あらすじ

ハロウィン・タウンに暮らす住人は怖い事や、人を驚かせる事が大好き。しかし、この町の王様であるジャック・スケルトンは、毎年開かれるハロウィン・タウンのお祭りに何か虚しさを感じていました。

そんな時、彼は恐怖のハロウィン・タウンとは全く違った明るく楽しいクリスマス・タウンを見つけます。この町で見た光景に心を奪われ、ジャックは自分もクリスマスを作り出そうと準備を進めていきます。

しかし、ジャックも町の住人も、本当の「クリスマス」が何なのか分からないまま次第に暴走していき、事態はどんどんおかしな方向へと進んでいくのでした…。

“モンスター”という存在

この作品の生みの親であり監督のティム・バートンは、子供の頃からモンスター映画が好きでした。そして、同時にいつも恐ろしい存在として描かれるモンスターに違和感を持っていました。ティム・バートンは『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』を製作した際、モンスター映画でモンスターが人々から退治されるような役割を担っていることについて、次のように話しています。

実社会でも同じだよ。人間っていつでもそういうふうに決めつけられてしまうんだ。僕はそういうふうに感じていて、すぐに決めつけられるってことが気に入らなかった。だから情熱的で、邪悪だとか恐ろしいとか思われているんだけど、ほんとはそうではないキャラクターたちのことが、僕はいつだって好きだった。

マーク・ソールズベリー, 2011, p154より

『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』のキャラクター達には、このようなティム・バートンの思いが色濃く反映されています。ハロウィン・タウンの住人は皆、人間味が溢れており、私たちが“モンスター”と聞いて想像するようなものとは違うのです。

ジャック・スケルトンは自分の夢を実現するために努力をし、彼に思いを寄せるサリーは張り切って準備を進めるジャックを心配しています。その様子は、まるで本物の人間のようであり、私たちは彼ら“モンスター”の姿を見て感情移入することだってできるのです。

この映画は、私たちの“モンスター=危険で邪悪な生き物”というおかしな固定概念を崩してくれています。普通モンスターは、人間からすると危険で怖い存在であり、人間はそのようなモンスターを排除しようとします。

しかし、ティム・バートンは、モンスターを危険で怖いものと決めつけずに、モンスターを理解しようとしました。これには、彼自身が異端者としてこれまで扱われてきた歴史が関係しているのかもしれません。

不気味なのに可愛いキャラクター

この作品ではもうひとつ注目したい点は、ティム・バートンらしい不気味で可愛らしいキャラクターです。ティム・バートンというと、この“不気味だけれどもどこか可愛げのあるキャラクター”をイメージする人も多いかもしれません。

2014年の11月1日から2015年の1月4日まで日本で開かれていた展覧会「ティム・バートンの世界」では、彼が作成したイラストが数多く展示されました。その中には、彼が子供の頃に描いたイラストもありましたが、もうすでにティム・バートン特有の“奇妙な世界”を感じられました。

では、なぜ彼の生み出すキャラクターは人々に、不気味、または奇妙であると感じさせてしまうのでしょうか…?それはきっと、彼の描く人間が、人間らしくないからでしょう。

ティム・バートンは絵を描くことに、正解も不正解もないと考えていました。好きなものを好きな時に描く、それが彼のスタイルだったのです。しかし、子供の頃はそれが許されないこともありました。

アート・スクールで絵を描く喜びを殺さなくちゃならなくて、本当につらかったことを思い出すよ。自分自身を表現して子供のときのように描くことを推奨される代わりに、社会の規定通りに描かされ始めるんだからね。

マーク・ソールズベリー, 2011, p038より

当時のことをティム・バートンはこのように述べています。

しかし、彼はその後、人の目を気にせず、自分の好きなものを好きなように描くようになります。彼の本当にやりたいことは、絵を描いて「うまいね」と人々から褒めてもらえることではなく、ただ自分が思うように好きな絵を描くことであるいうことに気付いたからです。

その時から、ティム・バートンにとって、人間を描く時にそれがいかに人間らしいかなど、全く関係なくなったのだと考えられます。

ティム・バートンの描くキャラクターは、手足が極端に細長く、目が顔の半分を占めるほど巨大なのが特徴です。また、顔色は生気を感じられないほど色白いものもあり、これには不気味さや不自然さが感じられます。

『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』のキャラクター達もこの例外ではありません。しかし、私たちはジャックや他のキャラクターを見た時に、不気味さだけでなく、どこか可愛いという感情も持つでしょう。

実際に、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』は多くのキャラクターグッズが多く作られています。また、東京ディズニーランドでは毎年ハロウィンの時期に、『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』の装飾がホーンテッドマンション(東京ディズニーランドのアトラクション)に施され、これは毎年長蛇の列ができるほど人気です。


【Dステージ】#035 『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』ナイトメアー・ビフォア・クリスマス

では、なぜ私たちはこのような不気味なキャラクターに可愛いという感情を抱くのでしょうか。それには、色使いやキャラクターの持つ性格の意外性が関係していると考えます。

ティム・バートンは、“不気味なキャラクター”を描く際に、それとは対照的なカラフルな色作りにすることが多いです。また、キャラクター達は、私たちがその姿から想像するような恐ろしい行動をするのではなく、可愛らしい設定の中で、コミカルな動きをすることが多いです。

このような不気味なキャラクターとは真逆のカラフルな色使いや、可愛らしい行動の意外性が、私たちに「不気味だけれども可愛い」という不思議な感情を与えます。この微妙なバランスこそが、ティム・バートンらしい奇妙で愛らしいキャラクターを生み出したのかもしれませんね。

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