『シェイプ・オブ・ウォーター』から学ぶ1960年代アメリカにおける差別

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アカデミー賞やゴールデングローブ賞など、各国の有名な賞を総なめした『シェイプ・オブ・ウォーター』。この記事では、作品から見られるマイノリティの描かれ方について紹介しています!

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あらすじ

発話障害の女性イライザは、機密機関「航空宇宙研究センター」の清掃員として働いています。アパートに1人で暮らしながら、同じような毎日を過ごするイライザ。

ある日、彼女は宇宙センターに運ばれてきた謎の生物「彼」と出会います。凛々しさと気品を秘めた容貌は、イライザの心を揺り動かしました。

そんな中、宇宙センターで働く軍人のエリート・ストリックランドは、「彼」をひどく痛めつけ、イライザは「彼」が苦しんでいる姿に心を痛めます。

彼女は、「彼」のいる部屋にこっそり潜り込み、ある時は家から持参したゆで卵を与え、またある時には音楽プレイヤーを持ち込み、「彼」と2人の時間を楽しむのでした。

「彼」は、初めは凶暴な生物でしたが、イライザの優しさに心を許し、次第に「彼」とイライザは互いに惹かれ合うようになります。

しかしそんな時、ストリックランドが「彼」を解剖しようとしていることを知り、イライザは「彼」を宇宙センターから逃す計画を立てます。

イライザのアパートの隣人でゲイのジャイルズや、清掃員として共に働くアフリカ系女性ゼルダの手を借りて、「彼」を宇宙センターから連れ出すことに成功したイライザ。

しかし、「彼」がいなくなったことで出世の道が絶たれそうなストリックランドは、殺意を剥き出しにしながら犯人を探し、ついにイライザたちの仕業ということがバレてしまうのでした…。

登場人物

イライザ … 主人公であり、発話障害の女性。平穏な日々を過ごしながらも、恋人のいない生活に孤独を抱えている。好奇心旺盛な性格。

生物「彼」 … アマゾンの奥地で神として崇拝されていた謎の生物。人間によって無理やり宇宙センターに連れてこられた。半魚人のような見た目をしている。

ジャイルズ … イライザと同じアパートに暮らす男性でゲイ。イライザの良き友達。絵を描く仕事をしている。

ゼルダ … イライザの仕事場の仲間で、不器用な彼女を気遣う親切なアフリカ系の女性。イライザの良き理解者。

ストリックランド … 宇宙センターで働く軍人。地位と名誉のためならどのようなことでも行う冷酷な性格で、差別主義者。妻と子供がいる。

ホフステトラー博士 … 宇宙センターに新しい博士としてやってきたが、実はソ連のスパイ。優しい一面も持つ。

ホイト元帥 … アメリカ軍の元帥でありストリックランドの上司。冷酷な男で、ストリックランドに対して高圧的な態度を取る。

パイ屋の店員(モーガン・ケリー) … ジャイルズが好意を寄せている男性。パイの店で働いている。彼に対して明るく接していたが、実は差別主義者。

これらの登場人物を、「マジョリティ(多数派)」と「マイノリティ(少数派)」に当てはめてみると、このようになると考えました。

マジョリティ

・ストリックランド(軍人で裕福な暮らしをしている)
・ホイト元帥(軍の元帥でありストリックランドの上司)
・パイ屋の店員(ごく一般のアメリカ人男性)

マイノリティ

・イライザ(発話障害がある)
・「彼」(アマゾンから来た謎の生物)
・ジャイルズ(ゲイ)
・ゼルダ(アフリカ系)

どちらとも言えない … ホフステトラー博士(アメリカ人の博士として働いているが、実はソ連のスパイ)

ホフステトラー博士は、マジョリティでもありマイノリティでもあり、非常に面白い立場にいるといえます。

ホフステトラー博士については、別の記事で分析しています。
『シェイプ・オブ・ウォーター』ホフステトラー博士はマジョリティ?マイノリティ?

作品におけるマイノリティ表象

この作品において、イライザやゼルダなどのマイノリティは、どのように描かれているのでしょうか。

シーンで見るマジョリティとマイノリティの描かれ方

主人公イライザや彼女の周りにいる人物は、主にマイノリティです。アフリカ系、ゲイ、障害者といった人々は、当時のアメリカにおいて虐げられた存在であり、差別の対象でありました。

特にゼルダのようなアフリカ系の人々に対する人種差別は、想像を超える酷いものがありました。

このようなマイノリティに対する差別は、映画でも描かれています。作品内では、このような表現や言動などが見られました。

  • 発話障害のイライザやアフリカ系のゼルダは、夜間の清掃員として働いており、他の清掃員のメンバーもアフリカ系や移民系女性などマイノリティ。
  • ストリックランドは、弱っている「彼」をひどく痛めつける。
  • ストリックランドは、イライザとゼルダに対して「俺は何をやってるんだ?掃除係に話を聞くなんて。クソを片づけ、小便を拭くやつらに」と見下す発言をする。
  • ストリックランドは、ゼルダの生い立ちやイライザの障害をバカにするような発言をする。
  • ストリックランドは、「成功した者」の象徴である高級車を買う。
  • ゲイのジャイルズは、広告会社をクビになっている。(飲酒が原因と語られているが、ゲイであることが原因の可能性も?)
  • ジャイルズが好意を寄せていたパイ屋の店員は、店を訪れたアフリカ系のカップルに失礼な態度をとり、店から追い出す。

また、権力者の象徴であるストリックランドが、弱者でありマイノリティのイライザや「彼」を支配・管理するシーンが多く見受けられます。

当時のアメリカの様子

『シェイプ・オブ・ウォーター』は、1960年代のアメリカ・ボルティモアを舞台にしています。この時代、特にボルティモアの地域では人種差別が行われていました。

当時のアメリカで起きた出来事を、簡単に見てみましょう。

年代出来事
1950〜アメリカ南部の黒人の間で、人種差別反対の動きが活発になる。
1961ケネディの大統領就任。黒人に公民権を認め、差別撤廃に乗り出す方針を示す。
1963 ジョンソン大統領就任。
キング牧師らの指導により、約20万人がワシントン大行進を敢行。
1964公民権法の制定。
1965投票権法の制定。

1960年代のアメリカにおける人種差別については、こちらの記事でより詳しく紹介しています。
1950〜1960年代のアメリカ人種差別を学ぶ

これらの出来事から、1950〜1960年代のアメリカは、人種差別の解消に盛り上がりを見せた時代だと言えます。

しかし、法律が成立した後も、差別主義者の考え方やマイノリティに対する言動は、すぐには変わらなかったようです。

法律成立後も、差別や偏見は続いていたのです。

まとめ

この作品は、アフリカ系アメリカ人に対する人種差別だけではなく、ゲイや障害者といった様々なタイプのマイノリティに対する差別や偏見を描いています。

これらのマイノリティに属する人々にとって、この時代は非常に生きにくい時代だったでしょう。

映画の中で、ゲイのジャイルズはこのように話しています。

「生まれてきた時代が早すぎたか遅すぎたって時々考えるよ。僕らは過去の遺物なのかもな。」

このセリフには、当時のマイノリティが感じていた「自分たちの居場所はどこにもない」という孤独が現れています。

『シェイプ・オブ・ウォーター』を通して、観客は1960年代のアメリカで行われていたマイノリティに対する差別・偏見学ぶことができます。

作品を見ながら、昔のアメリカにおける差別を感じてみてはいかがでしょうか。

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