映画『シェイプ・オブ・ウォーター』の登場人物・ホフステトラー博士。宇宙センターで働くマジョリティでありながらも、イライザや謎の生物「彼」を助けるなど、マイノリティ的一面も持ち合わせている興味深い人物です。この記事では、ホフステトラー博士について分析しています。
ホフステトラー博士とは?
航空宇宙センターで、謎の生物「彼」を担当する博士。
実はソ連のスパイで、名前はディミトリという。神秘的な「彼」の存在に魅力を感じており、イライザが「彼」を逃がそうとした時に協力する。
ロバート・ホフステトラー博士を演じているのは、アメリカの俳優マイケル・スタールバーグ。
映画公開時は、49歳頃でした。代表作は、『ヒューゴの不思議な発明』(2011)、『ドクター・ストレンジ』(2016)、『ペンタゴン・ペーパーズ/最高機密文書』(2017)などがあります。
ホフステトラー博士はマジョリティ?マイノリティ?
『シェイプ・オブ・ウォーター』の主要な登場人物は、このようにマジョリティとマイノリティに分けることができます。
・ストリックランド(軍人で裕福な暮らしをしている)
・ホイト元帥(軍の元帥でありストリックランドの上司)
・パイ屋の店員(ごく一般のアメリカ人男性)
・イライザ(発話障害がある)
・「彼」(アマゾンから来た謎の生物)
・ジャイルズ(ゲイ)
・ゼルダ(アフリカ系)
では、ホフステトラー博士はマジョリティ・マイノリティのどちらに属するのでしょうか?
結論から言うと、彼はマジョリティでもありマイノリティでもあると考えることができます。
それぞれの理由を挙げてみました。
マジョリティと考える理由
ソ連からのスパイでありながらも、それを隠して宇宙センターで働いているホフステトラー博士。
博士は、同じく宇宙センターで働くストリックランドのようにマイノリティの象徴である「彼」を管理・支配する立場にいます。
日頃は身分を隠して普通のアメリカ人として働いており、外見を見るだけではマジョリティのように見えるでしょう。
また、ホフステトラー博士には、体のハンディキャップなどはなく、LGBTにも当てはまりません。
このように、「彼」を管理・支配する立場にいること、アメリカ人の博士として働いていること、マイノリティに当てはまる部分がないことから、ホフステトラーはマジョリティであると言えるかもしれません。

マイノリティと考える理由
一方で、ソ連の人間でありながらも身分を偽り、アメリカで働いているという点では、「アメリカに住むソ連人」としてマイノリティと考えることもできます。
『シェイプ・オブ・ウォーター』は、1960年代のアメリカを舞台にしていますが、当時アメリカとソ連は冷戦状態にあり、互いの国を「仮想敵国」としていました。
この点を踏まえると、ホフステトラー博士はアメリカ人にとって「敵」であり、「マイノリティ」でもあるでしょう。
また、博士は「彼」を支配する立場にいながらも、「彼」を乱暴に扱うストリックランドとは正反対で、「彼」を大切に扱い、体調を気にかけ、イライザが「彼」を逃がそうとした時には手助けをします。
このように、ホフステトラー博士は度々マイノリティ的立場の人物を助け、彼らをサポートする役割を担っていました。
また、博士がスパイとしてソ連の人間と話しているところを見ると、ソ連の人間にあまり信用されておらず、どこか「蚊帳の外」のような状態である事が分かります。
「スパイ」の仕事というと、どのような指示にも従い、時には残酷な任務も遂行していくものです。
しかし、人情が熱く、博士としての仕事に誇りと情熱を持っているホフステトラー博士は、スパイには向いておらず、ソ連のスパイの中では、マイノリティ的立場にあったのかもしれません。
このように、アメリカに住むソ連人であること、マイノリティに寄り添った言動が見られること、スパイの中で浮いた存在であることから、ホフステトラー博士は、マイノリティであるともいうことができます。
ホフステトラー博士を通して伝えたいメッセージ
マジョリティ的な面もマイノリティ的な面も持ち合わせているホフステトラー博士。
監督のギレルモ・デル・トロは、どのような思いでこの「ホフステトラー博士」というキャラクターを生み出したのでしょうか。
もしかしたら、人は誰でもマイノリティ的側面を持ち合わせているということを伝えたかったのかもしれません。
一見マジョリティに見えても、内面にはマイノリティ的側面を持ち合わせているというホフステトラー博士という人物はたくさんいます。
むしろ完全なるマジョリティという人間は、少ないのではないでしょうか。
ギレルモ・デル・トロ監督は、ホフステトラー博士というキャラクターを通して、人と違うことを悪いとするのではなく、違いを個性として受け入れ、尊重し、相手に歩み寄る大切さを伝えているのかもしれませんね。